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[中村レポート]コロナ禍のサイエンスコミュニケーションワーク(スペースタイムの場合)

あきらかに1年半前と変わった。

意識、行動の変化を、世界中のヒトびとにこれほど急速に平等に余儀なく求められたのは、ホモサピエンス史に残る事件になるだろう。この事件はサイエンスの片隅で働く私たちの仕事、働き方にも変化をもたらしているので、記しておきたい。

 

コロナ感染の蔓延を恐れながら迎えた20202月・3月。2019年度末納期の超繁忙期と重なり、大きな濁流に飲み込まれていくような感覚のなか、「次年度も仕事を続けられるのか?」を心底心配していた。経済は? 人と研究の交流は? サイエンスコミュニケーションどころじゃないのか、それとも今こそサイエンスコミュニケーションなのか? 何が変わり、何が変わらないのか、見当もつかなかった。

そして、1年半。結果はまったく想像していないものだった。

年間案件数

年間の案件数(ウェブサイトメンテナンス、ラッコラ事業除く)

  • 2019年度 約160
  • 2020年度 約250
  • 2021年度(上半期)約160件(相談・制作中案件を含む)

2019年度年間案件数に比べて、2020年度は[1.5倍]に増えており、さらに2021年度上半期は、その[1.3倍]に増えた。2021年度上半期だけで、2019年度の総数の依頼を受けており、1年半で[2倍]のペースで仕事が増えている。

2021年1月6日を以って2020年度内納品の新規のご依頼を締め切っているので、締め切る事態にならなければ、案件数はさらに増えていただろう。

一見、コロナのせいで増えたかのようだか、コロナでなくとも私たちの仕事の評価・評判の結果として延びている可能性もあり、傾向を考察する必要がある。

増減の傾向

3年ほど前までは、年度(4月~翌3月)の月ごとの案件数の推移は同じだった。3月の怒涛の納期が終わると、8月ごろまでは受注確定する案件も納品も少なかった。9月から忙しくなりはじめ、11月から3月までは繁忙期だった。

ところが、2020年度は4月から相談・依頼が続き、例年と違う傾向を感じた。

まず、論文作図の依頼が増えた

国内外の移動が制限された研究者の方々が、溜めていた実験結果で論文を書き始められ、論文に使う作図が必要になったためだと考察している。「論文作図で検索しました」という新規のお客様からのお問い合わせが増えた。

この1年半の間に、会社のキャパを超え、受注をお断りする事態が3度ほど起きてしまった。

イベント減に変わり求められたのは良質なコンテンツ制作だった

当然、「集まる」案件は無くなり、イベント企画やポスター制作は激減。イベントはことごとくオンラインで行われ、いち早くZoomのセミナーに対応していたため、新規事業として中規模のオンラインイベントの取材兼技術サポートが始まった。

オンラインでは目的が全うできないイベントも多く、その代わりに増えたのは、動画制作とライティングだった。インターネットが命綱となったこの一年半。「伝えたい」を動画に、文字に、イメージに投影する仕事が増え、また提案することも増えた。

私たちが、お客様の事情を把握できることや、研究内容にコミットする深さや早さもあって、コンテンツ制作は延びている。

さらに、書籍づくりの依頼が来るようになった。

お客様の変化

地理的に一挙に全国区

2019年度までは、打合せに行くことが当たり前で、遠いお客様とのオンラインの打合せは致し方ない方法と考えていたが、状況は一変。歩いていける距離でもオンラインで打合せをするようになると、地理的距離は関係がなくなった。

例えば、九州にいても、札幌の会社に依頼してもいいんじゃないかと思ってもらえるようになり、その結果、全国に新規のお客様が増えた。まったく別々の地域の研究者と共同研究しているプロジェクト案件などでは、熊本、大阪、東京、札幌をつなげて打合せをするなんてことも日常となってきた。

もともとPCとネットと頭とハートがあれば、どこにいてもほとんどのことができる仕事だったこともあり、私たちが在宅勤務になっても業務に思ったほど支障がでなかったことは幸運だった。(ただし、小さいこどものいるスタッフは苦労多し)

こうして、お客様にとって「札幌・つくばにある会社」が依頼のハードルではなくなったことが2020年度以降、仕事が増えた大きな要因だと思っている。

分野的にも業務的にも拡大

私たちがまったく触れてこなかった分野からお声がかかるようになった。これはコロナとは関係がないと思っている。これまで、「できますとは言わず、やります」イズムで通してきたが、そんな私たちでも後退りしそうになるほどの未知の分野に足を踏み入れている。おかげさまで、無知の知に事欠かない。

考えたこともなかった相談も

サイエンスコミュニケーションで活動されている方の、「プロモーション」的なにか。。。自由に発想する分には面白いが、実際におひとりおひとりの働き方にコミットする責任重大なことなので慎重にならざる負えない。

このような相談の背景には、ひとりで活動されている方がイベントや人に会う機会が少なくなったことにより、プロモーションや経営に苦慮していることがあるのかもしれない。

サイエンスコミュニケーションのスタイルは決めない

この一年半を振り返ると、想像の上を行く相談者、相談内容に、技能と企画とアイデアで対応し、かなりの「その手があったか!」を発動中と自負している。逆に言えば、多くの課題難問によって私たちの発想と可能性を引き出してもらっているのだ。

コロナによって変様された意識が新たなカタチを生み出し、惰性的仕事は整理され、大切なことを再発見する営みが続いているように思う。そう、コロナ禍の影響はあった。

もし、自分たちの得意に固執していたら、コロナ禍の変化に取り残され、新しい可能性を切り拓けなかっただろう。だから、今の技能の限界に留まらず、これからもサイエンスコミュニケーションの柔軟なスタイルを追い求める姿勢が大切なのだ。

そして人を増やす

20214月、スタッフを増やすことに待ったなしとなった。そこで、5月にサイエンスコミュニケーターの募集をしたところ、勤務地不問にしたこともあってか国内外から40人近い応募をいただいた。(新スタッフ3人紹介準備中)。これには非常に驚き、サイエンスコミュニケーターの役割を深く考えるきっかけとなった。

年に何度かサイエンスコミュニケーションのセミナーを依頼されることがあったが、積極的に増やしていこうと思うに至り、非公開にスクーリングも実験し始め、社内外を問わず技能向上に貢献したいと考え始めている。

「仕事を増やすことは、人を増やすこと。その逆も然り。」人の分だけ、多様なサイエンスコミュニケーションに挑戦できる。202110月に入り、「サイエンスコミュニケーションに興味のあるウェブエンジニア」というユニークな人材募集を始めた。ユニーク過ぎて応募がないかもしれないとも思ったが、実際スペースタイムにはすでにユニークなスタッフがいるのだから希望はあると見ている。

 

 

レポートと言っても個人の雑感かもしれないが、サイエンスコミュニケーションに興味のある方にとって、なにかしらの参考になればと思う。(株式会社スペースタイム 代表取締役社長 中村景子)